【会社設立の御挨拶】

 

本日より、個人事業としての【増田慎太郎一級建築士事務所】を【株式会社伏見屋】に改組し、代表取締役に就任いたしました。

またこの改組を期に、本社を東京都千代田区猿楽町に移転いたしました。

ひとえに皆様の御支援と御協力の賜物と厚くお礼申し上げます。

 

【伏見屋】とはいささか古めかしい印象ですが、この屋号は、私の父方の実家である和楽器店(琴・三味線の製造・販売)と増田家の歴史に由来します。

 

遡ること数百年前、私の15代前の先祖は、増田仁右衛門と名乗る竹野岬源氏武士(現在の丹波地方の源氏武士)であり、史料によると、代々にわたり地場の船大工としても知られた存在であったようです。

時が経ち、私の曽祖父は京都の伏見を拠点とした船大工として活動する傍ら、和楽器の制作も請け負うようになりました。史料によると、当時の和楽器職人の中では屈指の名工と評された人物であったそうです。

そして、ちょうど100年前、赤羽橋(現・東京都港区)に上京し、【伏見屋増田楽器店】と称する店舗を構えました。その後30余年に渡り此の地で営業を続けましたが、戦時の空襲によって焼け野原となった経緯で拠点を文京区湯島に移転し、70余年にわたり高度成長期における湯島天神界隈の花街を下支えする役目を担いました。

しかし、栄枯盛衰は世の習い、戦後70年の節目にして創業99年目にあたる昨春、その長い歴史に幕を閉じました。

 

私自身、閉店後は、建築士の端くれとして、また古都鎌倉に関心を抱いた若者として、歴史ある地の古建築物を如何にして保存・再生が可能か模索を続けました。しかし、築年数相応の劣化事象も散見され、やむなく私の現場監理の元で全解体と相成りました。

運命とは実に皮肉なものですが、解体の最中に朽ち錆びた治具を収集する中で、我が国が世界的に類を見ない劇的な成長を遂げる傍ら、和文化の発展の一役を担った【伏見屋】の歴史を追体験する貴重な時間となりました。

 

これと同時期に、弊所は設計事務所の枠組を越え異業種との協働が必要な御依頼を多数お預かりするようになりました。【氏名+一級建築士事務所】の称号は、独立当初に「自分の名前で設計監理の仕事を取る」という単純明解な発想で冠した訳ですが、その想いを超えた需要に対し受け皿の構築が急務になりました。

 

私は、建築・都市は決して商業的・技術的なもののみならず、有史以来の人々の営みの足跡そのものでもありうると思います。また現代に生きる我々は、様々な天変地異への対処も含めて、非常に大きな歴史的分岐点に立っているものと感じています。

 

その激動の時代を生き挑戦を続ける中で、過去100年間の発展の時代を担った【伏見屋】の屋号は、来たる100年を模索する中で最も適した称号でした。

文化の継承には有形無形問わず様々な形態がありますが、有形財をかたちづくる生業をより発展的にする意味でも、無形財の継承は新たな事業展開への強い想いを表現するに充分な称号と受け止め、その屋号を継承することと致しました。

 

今般設立いたしました【株式会社伏見屋】では、新たに取締役としてベテランの宅地建物取引士と女性取締役を迎え、従来からの建築設計監理業務を超えて、建築分野・不動産分野に対しても、性差や世代差を超えて包括的な事業展開が可能な組織体制を設えました。

また従来から事業の核とする建築設計監理に於いても、個人事業時代より幅広い分野に対し御相談をいただいたことを受け、今後は各用途別に専任の設計者ないしは協働設計者を据え、より幅広い情報と深い知識を以て、顧客ニーズに対応できる組織体制を確保いたします。

 

皆様には改めて御挨拶をいたしたく存じますが、誠に略儀ではありますが、まずは会社設立の御挨拶を申し上げます。 

今後共御指導御鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

 

 

2016.06.01.  株式会社伏見屋 代表取締役 増田慎太郎

 

 

 

戦後〜高度成長期の日本は、「庭付き一戸建」を目指し人生のすごろくを進め、発展こそが成功の象徴と言える時代でした。

 

しかし、その夢の様な時代を越えて、私が思春期を迎えた頃にはすでに「量から質へ」「コンクリートから人へ」と語られる時代を迎えるに至りました。

また社会に出てからは、耐震偽装事件、東日本大震災、杭工事の施工データを改ざん事件など、天災・人為的ミスの区別なく、我々の身の安全や当たり前に享受できるはずの日常の脆さを目にしました。

また昨年(2015年)の新国立競技場の紆余曲折は、建築業界の品格や社会的信用を問う結果となりました。

 

いま建築産業は、安心・安全・多様性に答える時代へと変貌を遂げつつあります。

ざっと事例を挙げても、家族構成の変化、生活スタイルの多様化、少子高齢化社会、バリアフリー、耐震化、長寿命化、中古市場の活性化、など。

従来の「成長産業」「大量生産・大量消費型モデル」のビジョンでは対処しきれない課題が山積しています。

 

しかし、人々は、例えば住宅を手に入れようとすると、まずこのようなことを考えるでしょう。

 

「戸建住宅」か「集合住宅」か。

「新築物件」か「中古物件」か。

「都心居住」か「郊外居住」か。

「分譲住宅」か「注文住宅」か。

 

はたしてその二項対立で、みなさまの課題は解決できるでしょうか。

また仮に解決策であったとして、そのいまの環境に自分を合わせてはいないでしょうか。

 

私は、これらのアイデアは「これまでに構築してきた定義を再構築したに過ぎない」と考えています。

社会が変われば、人が変わり、過ごし方(つまりは住まい方)も変わります。

 

 

私は「建築士」「建築家」を「空間設計を介してspecifically(具体的/本質的)に回答する専門家」と定義しています。

 

みなさまのspecialな空間をspecificallyにご提案できれば幸いです。

 

 

2013.11.01.

増田 慎太郎

(2015.01.22. 改訂)